不動産オーナーの相続対策として、一般社団法人を使う手法は長らく注目されてきました。「持分がないから、相続のたびに課税される財産が発生しない」という理屈は、たしかに構造として筋が通っています。
ところが、この手法は2018年(平成30年)の税制改正で大きく制限されました。にもかかわらず、いまだに改正前の前提で書かれた情報が流通しており、それを信じて設計してしまうと、想定外の相続税が発生します。
本記事では、そもそもなぜ一般社団法人が相続対策になり得たのか、2018年改正で何が塞がれたのか、そして改正後にどのような設計であれば意味を持つのかを、順を追って整理します。
不動産オーナーの相続が難しい理由
| 壁 | 内容 | 実務上の悩み |
|---|---|---|
| 評価額の大きさ | 収益不動産は規模が大きいほど課税対象額が膨らむ | 相続税評価額が下がっても負担が残る |
| 分割の困難さ | 不動産は現金や株式のように切り分けにくい | 共有化で売却・建替えの意思決定が滞りやすい |
| 納税資金 | 相続税は原則として現金納付 | 納税のために物件売却が必要になることがある |
- 向いている〇:相続財産を分割させず、事業として次世代に引き継ぎたい不動産オーナー
- 向いていない×:家族だけで支配しながら、相続税だけを避けたい不動産オーナー
不動産を多く保有するオーナーの相続には、他の資産にはない固有の難しさがあります。
第一に、評価額の大きさです。収益不動産は相続税評価額こそ時価より低く算定される傾向がありますが、それでも保有規模が大きくなれば課税対象額は膨らみます。
第二に、分割の困難さです。現金や株式と違い、不動産は切り分けにくく、共有にすれば将来の売却や建替えで意思決定が滞ります。相続人が複数いる場合、この問題は世代を超えて尾を引きます。
第三に、納税資金です。相続税は原則として現金で納めます。資産のほとんどが不動産というオーナーは、納税のために物件を手放さざるを得ない、という事態に直面しがちです。
この三つの壁に対して、「そもそも相続財産として承継させない構造をつくる」という発想から出てきたのが、一般社団法人の活用でした。
なぜ一般社団法人が相続対策になり得るのか
| 法人の器 | 承継されるもの | 相続税上の見え方 |
|---|---|---|
| 株式会社 | 株式・自社株 | 法人の純資産が株価に反映され、相続財産になる |
| 一般社団法人 | 理事という地位・運営体制 | 出資持分がなく、持分そのものは相続財産にならない |
| 2018年改正後 | 特定一般社団法人等に該当するか | 同族支配の場合はみなし相続税の対象になる |
持分がないという構造
株式会社に不動産を移した場合、オーナーが保有するのは自社株です。自社株は相続財産であり、法人の純資産が増えれば株価も上がり、相続のたびに評価され課税されます。資産管理会社を使っても、株式という形で財産は残り続けます。
一方、一般社団法人には出資持分という概念がありません。設立時に財産を拠出しても、それに対する持分は生じず、社員も理事も法人財産に対する所有権を持ちません。
したがって、理論上は、一般社団法人に不動産を移し、オーナーが理事としてその法人を運営していた場合、オーナーが亡くなっても「相続すべき持分」が存在しないことになります。法人はそのまま存続し、後継者が新たな理事に就任して運営を引き継ぐ。これが、この手法の核心にあったロジックです。
「相続財産にならない」の正確な意味
ここで注意が必要です。「相続税がかからない」のではなく、「相続によって承継される財産という形をとらない」というのが正確な表現です。そして2018年改正以降、この構造そのものに対して、相続税を課す規定が設けられました。
2018年改正:特定一般社団法人等に対するみなし相続税

| 判定項目 | 内容 | 注意点 |
|---|---|---|
| 直前判定 | 相続開始直前に同族役員数が理事総数の2分の1を超えている | 家族で理事を固めている法人が対象 |
| 5年内判定 | 相続開始前5年以内に2分の1超の期間が合計3年以上ある | 直前だけ外しても対処できない |
| 課税額の考え方 | 法人の純資産額を死亡した理事を含む同族理事数で割る | 法人が納税義務者になる |
この手法が広く使われるようになった結果、相続税法に新たな規定が設けられました。これが、いわゆる特定一般社団法人等に対するみなし相続税です。
特定一般社団法人等とは
次のいずれかに該当する一般社団法人・一般財団法人が、特定一般社団法人等とされます。
- 相続開始の直前において、同族役員数が理事の総数の2分の1を超えている
- 相続開始前5年以内において、同族役員数が理事の総数の2分の1を超える期間の合計が3年以上である
ここでいう同族役員とは、被相続人本人、その配偶者、三親等内の親族、そして被相続人が支配する会社の役員などを指します。つまり「家族で理事を固めている法人」が対象です。
2つ目の要件が重要です。「亡くなる直前だけ理事から家族を外せば逃れられる」という抜け道を防ぐため、過去5年間を遡って判定する構造になっています。直前の形式的な変更では対処できません。
課税される金額の考え方
特定一般社団法人等の同族理事が死亡した場合、その法人の純資産額を、死亡した理事を含む同族理事の数で割った金額を、その法人が被相続人から遺贈により取得したものとみなして、相続税が課されます。
たとえば法人の純資産が3億円、同族理事が3名(本人・配偶者・長男)であれば、3億円 ÷ 3名 = 1億円が課税対象額として扱われる、という計算です。しかも納税義務者は法人であり、法人が相続税を納めることになります。
さらに厄介なのは、この課税が世代を超えて繰り返される可能性があるという点です。配偶者が亡くなれば再び計算され、長男が亡くなればまた計算される。「一度きりの課税で終わる」という保証はありません。
つまり、家族だけで理事を固めた一般社団法人に不動産を集めるという設計は、2018年改正によって実質的に封じられました。この点を説明していない情報は、改正前の古い前提に立っています。
改正後に残った設計の余地

| 設計基準 | 必要な状態 | 意味すること |
|---|---|---|
| 同族役員2分の1以下 | 理事の過半数を第三者が占める | 家族の支配権を一定程度手放す |
| 非営利型3分の1以下 | 理事本人と親族等の合計が理事総数の3分の1以下 | 相続税法上の基準より厳しい |
| 信頼できる第三者 | 共同経営者・取引先・専門家などが関与する | 名前だけの理事では実態が弱い |
では、この手法は完全に無意味になったのか。そうではありません。焦点は、特定一般社団法人等に該当しない状態を、無理なく継続できるかどうかに移りました。
同族役員を2分の1以下に保つ
理事の過半数を、被相続人およびその親族等以外の第三者が占めていれば、特定一般社団法人等には該当しません。たとえば理事5名のうち、家族は2名まで。残る3名は第三者、という構成です。
ただし、これは「家族の支配権を手放す」ことを意味します。理事会の議決は理事の過半数で行われるため、第三者理事が多数を占める法人は、家族の思い通りには動きません。相続税の課税を避けるために、法人の統制を第三者に委ねる。この取引が受け入れられるかどうかが、最初の分岐点です。
現実には、事業として一緒に取り組む共同経営者、長年の取引先、志を共有する専門家といった、信頼できる第三者が存在するかどうかがすべてです。名前だけ借りた形式的な理事は、実態を伴わない以上、別の観点から問題視される余地があります。
非営利型の要件との関係
なお、非営利型の一般社団法人として法人税の取扱いを受けるためには、理事のうち理事本人とその親族等の合計が理事総数の3分の1以下であることが要件とされています。相続税法上の2分の1基準より、さらに厳しい水準です。
非営利型を選ぶのであれば、この3分の1要件を満たす時点で、相続税法上の特定一般社団法人等にも該当しないことになります。設計としては整合的です。
不動産を法人へ移すときのコスト
相続時の議論以前に、そもそも不動産を一般社団法人へ移す段階で相応のコストが発生します。ここを見落とすと、対策のつもりが目先の負担増になります。
| 論点 | 内容 |
|---|---|
| みなし譲渡課税 | 個人が法人へ時価より著しく低い価額で資産を移転した場合、時価で譲渡したものとみなして所得税が課される。含み益の大きい不動産では負担が重くなる |
| 登録免許税 | 所有権移転登記に際して課される。相続による移転より税率は高い |
| 不動産取得税 | 法人が不動産を取得したことに対して課される。相続による取得であれば課されない |
| 消費税 | 建物部分の譲渡は課税対象。土地は非課税だが、建物の金額次第で無視できない負担になる |
| 受贈益・贈与税相当の課税 | 無償または低額での移転は、法人側で受贈益として認識される。相続税法66条4項により、贈与税等が課される場合もある |
特に重いのが、みなし譲渡課税です。長く保有して含み益が積み上がった不動産ほど、法人へ移す瞬間の税負担が大きくなります。「将来の相続税を減らすために、今、多額の所得税を払う」という構図が成立するかどうかは、保有期間・残存耐用年数・想定される相続時期を踏まえて試算するほかありません。
相続税法66条4項という最後の関門
持分のない法人へ財産を移転する際、相続税や贈与税の負担が不当に減少する結果となると認められる場合には、その法人を個人とみなして贈与税または相続税を課すという規定があります。相続税法66条4項です。
「不当に減少する結果となると認められる場合」に該当しないためには、法人の運営組織が適正であること、理事等に占める親族等の割合が3分の1以下であること、特定の個人に特別の利益を与えないこと、解散時の残余財産が国等に帰属すること、といった要件を満たす必要があります。
ここでも、親族3分の1以下という基準が登場します。相続税法66条4項、非営利型の要件、特定一般社団法人等の判定。三つの制度が、いずれも「家族で固めた法人は認めない」という方向を向いています。制度全体のメッセージは一貫しています。
実務上、検討に値する設計
| パターン | 内容 | 向いているケース |
|---|---|---|
| 新規取得物件を法人で持つ | 最初から法人名義で取得し、移転コストを避ける | 今後も物件を増やす方針のオーナー |
| 管理・運営機能を切り出す | 賃貸管理・修繕手配・入居者対応を法人が担う | 所有権移転のコストを避けたいケース |
| 建物のみを法人へ移す | 土地は個人、建物は法人という整理にする | 建物の簿価が低く、税務手当てを行えるケース |
以上を踏まえると、不動産オーナーが一般社団法人を使う場合、現実的な設計は次のいずれかに収れんします。
パターン1|これから取得する物件を法人で持つ
既存物件を移転すればみなし譲渡課税と流通税が発生しますが、新規に取得する物件を最初から法人名義にすれば、移転コストは生じません。今後も物件を増やしていく方針のオーナーであれば、この形が最も摩擦が小さくなります。
パターン2|管理・運営機能を法人へ切り出す
不動産そのものは個人または資産管理会社に残し、賃貸管理・修繕手配・入居者対応といった管理機能を一般社団法人が担う設計です。所有権の移転が発生しないためコストは軽く、管理料という形で所得を分散できます。
ただし、管理料の水準には合理性が求められます。実際の業務内容と工数に見合わない金額を設定すれば、否認の対象になります。
パターン3|建物のみを法人へ移す
土地は個人に残し、建物のみを法人へ移転する手法です。建物は減価償却が進んでいれば簿価が低く、みなし譲渡課税の負担を抑えやすくなります。土地は個人が法人へ貸し、地代を受け取る形にします。
この設計は借地権の認定課税という別の論点を伴うため、無償返還の届出などの手当てが不可欠です。単独で判断せず、税理士との連携が前提になります。
向いているケース・向いていないケース
| 項目 | 向いている | 向いていない |
|---|---|---|
| 資産規模 | 今後も物件を増やしていく計画がある | 既存物件の含み益が非常に大きく移転コストが重い |
| 理事構成 | 信頼できる第三者を理事に迎えられる | 家族以外を法人に関与させたくない |
| 時間軸 | 相続まで10年以上の時間的余裕がある | 相続が数年内に見込まれる |
| 目的 | 承継・事業の継続性を重視する | 相続税の圧縮のみが目的である |
この表の右列に多く当てはまるのであれば、一般社団法人という選択肢は見送り、株式会社を使った資産管理会社、家族信託、生前贈与といった別の手段を検討するほうが合理的です。手段は目的に従うべきであり、その逆ではありません。
資産管理会社(株式会社)との比較
| 比較項目 | 株式会社の資産管理会社 | 一般社団法人 |
|---|---|---|
| 財産の見え方 | 株式として家族に残る | 財産は法人に留まり、持分はない |
| 承継のしやすさ | 生前贈与・事業承継税制などの打ち手がある | 理事の地位と運営体制を引き継ぐ |
| 向いている目的 | 家族に財産を残したい | 資産と事業を分割させずに継続したい |
| 注意点 | 株価評価と相続税が残る | 家族が財産を取り戻す道は閉ざされる |
不動産オーナーの相続対策では、株式会社による資産管理会社という選択肢が常に比較対象になります。両者の性格の違いを整理しておきます。
株式会社の場合、法人に蓄積した財産は株価に反映され、相続のたびに評価・課税されます。ただし、株式は生前贈与や事業承継税制の対象になり、持株比率の調整によって計画的に承継を進められます。財産が「見える」形で残っているぶん、打ち手も多いのです。
一般社団法人の場合、財産は誰のものでもない状態で法人に留まります。承継の対象になるのは財産ではなく、理事という地位です。うまく機能すれば、世代を超えて資産を分割せずに維持できます。ただし、その代償として、家族が財産を取り戻す道は閉ざされます。
どちらが優れているという話ではありません。「財産を家族に残したい」のか、「事業と資産を分割させずに継続させたい」のか。この問いへの答えが、そのまま器の選択になります。
よくある質問
- 理事を全員第三者にすれば、完全に課税を避けられますか
-
相続税法上の特定一般社団法人等には該当しなくなります。ただし、その法人はもはや家族の意思では動かせません。第三者の理事が財産の処分を決められる状態を受け入れられるか、という現実的な問題が残ります。
実務では、家族2名・第三者3名といった構成にしたうえで、定款や規程で重要事項の決議要件を工夫し、暴走を防ぐ設計を組みます。ただし、支配権を確保しようとするほど、実質的な同族支配とみなされるリスクは高まります。均衡点の見極めが必要です。
- 既存の資産管理会社を一般社団法人に変えられますか
-
株式会社から一般社団法人への組織変更は制度上できません。新たに一般社団法人を設立し、資産を移転するか、株式会社の株式を一般社団法人が保有する構造にするか、といった設計になります。
後者の場合、株式会社の株式を一般社団法人が持つことになるため、株式が相続財産から外れる一方で、株式の移転時に譲渡課税や受贈益の問題が生じます。移転する株式の評価額が大きいほど、初期の負担は重くなります。
- 収益がほとんど出ていない物件でも意味がありますか
-
相続対策としての意味は、法人の純資産の大きさに依存します。収益性が低く純資産も小さい段階であれば、移転コストのほうが上回ることも珍しくありません。一方で、これから資産を積み上げていく初期段階にこそ、器を用意しておく意味があるとも言えます。
判断の軸は、現在の規模ではなく、10年後・20年後にどこまで資産を積み上げる計画があるかです。
まとめ
- 一般社団法人には持分がなく、株式のように相続財産として承継される財産が生じない
- 2018年改正により、同族理事が2分の1を超える法人は特定一般社団法人等とされ、理事の死亡時に純資産を同族理事数で按分した額に相続税が課される
- 過去5年以内に3年以上該当した場合も対象となるため、直前の理事変更では回避できない
- 有効に機能させるには、理事の過半数(非営利型なら3分の2以上)を第三者が占める構成が必要になる
- 既存不動産の移転には、みなし譲渡課税・登録免許税・不動産取得税・消費税といったコストが伴う
- 新規取得物件を法人で持つ、管理機能のみ切り出す、といった摩擦の少ない設計から検討する
一般社団法人は、不動産オーナーにとって依然として有力な選択肢です。ただし、それは「家族で支配しながら課税を免れる器」ではなく、「第三者を含めた運営体制のもとで、資産と事業を次世代へ引き継ぐ器」としてです。制度の趣旨に沿った設計であれば、機能します。

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