医師・歯科医の先生方から寄せられる相談で、最も多い切り口がこれです。「医療法人にはしたが、それでも税負担が重い」「医療法人には出資持分がなく、出口が見えない」「勤務医時代より働いているのに、手元に残る額が思ったほど増えない」。
こうした行き詰まりの背景には、医療法人という器そのものが持つ制度上の制約があります。医療法人は、その公共性ゆえに、剰余金の配当が禁止され、事業範囲が限定され、解散時の残余財産の帰属先まで法律で縛られています。つまり、節税の器としては最初から自由度が低いのです。
そこで検討されるのが、医療法人とは別に一般社団法人を設け、医療行為以外の機能を切り出すという設計です。本記事では、この構造がなぜ成立するのか、どこまでが認められ、どこから否認されるのかを、実務の視点で整理します。
医師・歯科医の税負担が重くなる構造
| 段階 | 税負担の構造 | 次に起きる課題 |
|---|---|---|
| 個人開業医 | 所得税・住民税の累進課税を受ける | 高所得帯では手残りが薄くなりやすい |
| 医療法人化 | 法人税率と給与所得控除により負担を下げる | 法人に利益が蓄積すると出口の壁が出る |
| 一般社団法人の併設 | 医業以外の機能を切り出す | 実体・対価・法規制の整合が必要 |
- 向いている〇:診療以外に教育・学術・管理受託などの実体ある活動がある医師・歯科医
- 向いていない×:診療収入を形式的に移して税負担だけを下げようとする設計
個人開業医の場合、事業所得は所得税と住民税の累進課税を受けます。所得が大きくなるほど税率は段階的に上がり、高所得帯では合計の負担率が半分近くに達します。ここに国民健康保険料などの社会保険関連負担が乗るため、体感としての手残りはさらに薄くなります。
この負担を軽くするために、多くの先生が医療法人化を選びます。法人税率は所得税の最高税率より低い水準に抑えられており、役員報酬として受け取る部分には給与所得控除が使えるため、個人・法人を通算した負担は下がります。ここまでは定石です。
問題は、その先です。医療法人化によって節税は一段落するものの、法人に利益が蓄積していくと、次の壁にぶつかります。
医療法人が抱える3つの制約
| 制約 | 内容 | 実務上の影響 |
|---|---|---|
| 剰余金の配当ができない | 利益を株式会社のように配当で取り出せない | 役員報酬・退職金に出口が偏る |
| 事業範囲が限定されている | 本来業務・附帯業務の範囲に限られる | 教育・出版・管理受託などを広げにくい |
| 出資持分がない | 蓄積した財産への個人の権利がない | 出口や事業承継の設計が難しくなる |
1. 剰余金の配当ができない
医療法人は、医療法によって剰余金の配当が禁止されています。法人に利益が積み上がっても、それを株式会社のように配当として取り出すことはできません。取り出す手段は役員報酬か退職金に限られ、役員報酬を増やせば所得税の累進に戻ってしまいます。
2. 事業範囲が限定されている
医療法人が行える事業は、医療法で定められた本来業務・附帯業務の範囲に限られます。診療所や病院の運営、介護保険事業、一定の疾病予防事業などは可能ですが、一般的なセミナー事業、コンサルティング、出版、資産運用といった活動を自由に展開できるわけではありません。
先生が持つ知見や技術は、診療以外の形でも価値を生みます。しかし医療法人という器では、その価値を事業として受け止めきれない場面が出てきます。
3. 出資持分のない医療法人は「出口」が閉じている
平成19年の医療法改正以降に設立された医療法人には、出資持分がありません。つまり、法人に蓄積した財産に対する権利を、先生個人やご家族が持っていない状態です。解散した場合の残余財産は、国や地方公共団体、他の医療法人などに帰属することとされています。
これは相続税の観点では有利に働く面もありますが、裏を返せば「法人に貯め込んだ財産は、自分にもご家族にも戻ってこない」ということでもあります。事業承継の設計を考え始めたとき、多くの先生がここで立ち止まります。
一般社団法人が担える領域と、担えない領域

| 区分 | 一般社団法人での扱い | 具体例 |
|---|---|---|
| 担えない× | 医業(診療行為)そのもの | 診療所・病院の開設主体、診療報酬の受け取り |
| 担える〇 | 医業以外の価値 | 学術研究、教育研修、啓発セミナー、バックオフィス受託 |
| 慎重に設計 | 医療法人との取引 | 管理業務委託、資産賃貸、ブランド管理 |
先に、最も重要な線引きを明確にしておきます。
医業(診療行為)そのものを一般社団法人で行うことは、原則としてできません。診療所や病院の開設主体になれるのは、医師個人、医療法人、その他医療法に定める主体であり、一般社団法人が診療報酬を受け取る主体になることは想定されていません。この点を誤解したままスキームを組むと、医療法違反という次元の問題に発展します。
では、何ができるのか。一般社団法人が担えるのは、医療行為の周辺にある「医業以外の価値」です。具体的には次のような領域です。
- 学術・研究活動、症例研究会、学会運営
- 医療従事者向けの研修・教育事業、認定資格の発行
- 一般向けの啓発セミナー、書籍・情報コンテンツの制作
- 医療機関のバックオフィス機能(経理・人事・広報・IT等)の受託
- 医療機器・設備の保有と賃貸
- 複数拠点を持つ場合の統括・ブランド管理
これらはいずれも、医療法人では扱いにくく、しかし先生の事業活動として実体を持ちうる領域です。ここを一般社団法人に切り出すことで、医療法人・個人・一般社団法人の三者で所得を分散させる設計が成り立ちます。
代表的な活用パターン

| パターン | 内容 |
|---|---|
| 学会・研究会型 | 専門領域の学会や研究会を一般社団法人として運営する。会費・年会費、学術大会の参加費、認定資格の受験料・更新料が収入源となる |
| 教育・研修型 | 医療従事者や一般向けの講座、セミナー、オンライン教材を提供する。先生の知見を診療以外の収益に変える設計 |
| 管理受託型 | 医療法人や個人診療所から、経理・労務・広報・IT・購買などの管理業務を受託する。いわゆるMS法人の機能を一般社団法人が担う形 |
| 資産保有型 | 医療機器や不動産を保有し、医療法人へ賃貸する。減価償却と賃料収入の設計を法人側で行う |
| 承継・統括型 | 複数の診療所やブランドを統括し、後継者の育成の場として機能させる |
実務で最も多いのは、教育・研修型と管理受託型の組み合わせです。先生が診療で培った知見を教育コンテンツにし、同時に医療法人のバックオフィスを一般社団法人へ集約する。この二本柱であれば、活動の実体を説明しやすく、収益の根拠も明確になります。
なぜ「非営利型」を選ぶのか
| 収入・活動 | 収益事業の可能性 | 注意点 |
|---|---|---|
| 通常会費・寄附金・補助金 | 原則として収益事業に該当しない | 対価性の有無を確認する |
| 有料セミナー | 技芸教授業や請負業に該当する可能性が高い | 区分経理が必要 |
| 書籍販売 | 物品販売業に該当する可能性が高い | 課税対象として処理する |
| 業務受託 | 請負業に該当する可能性が高い | 契約書と業務報告書を整備する |
一般社団法人には、普通型と非営利型があります。税制上の取扱いが大きく異なるのはこの点です。
非営利型の一般社団法人は、法人税の課税対象が収益事業から生じた所得に限定されます。収益事業とは法人税法に列挙された34の業種を指し、これに該当しない活動から生じた所得は、法人税の課税対象になりません。
たとえば、学会や研究会の通常会費、寄附金、補助金といった収入は、原則として収益事業に該当しません。一方で、有料セミナーは技芸教授業や請負業に、書籍販売は物品販売業に、業務受託は請負業に該当する可能性が高くなります。
つまり非営利型は「何でも課税されない器」ではなく、「活動の性質によって課税範囲が切り分けられる器」です。この切り分けを設計段階で理解しているかどうかで、実際の効果は大きく変わります。
非営利型として扱われるためには、定款の記載と役員構成に関する要件を満たす必要があります。代表的なものが次の2点です。
- 剰余金の分配を行わない旨、および解散時の残余財産を国・地方公共団体・一定の公益的な法人に帰属させる旨を定款に定めていること
- 理事のうち、理事本人とその親族等の合計が理事総数の3分の1以下であること
2つ目の要件は、医師の先生方にとって現実的な論点になります。理事を先生とご家族だけで固めることはできません。信頼できる第三者を理事として迎える設計が前提になります。ここを軽視して家族だけで組成すると、非営利型の要件を満たさず、普通型として全所得課税を受けることになります。
否認されないための4つの原則
| 原則 | 見られるポイント | 整備する資料 |
|---|---|---|
| 活動の実体 | 箱だけの法人になっていないか | 議事録、開催記録、ウェブサイト、パンフレット |
| 対価の合理性 | 業務内容と金額が見合っているか | 契約書、業務報告書、請求明細、相場資料 |
| 関連法規との整合 | 医療法・広告規制・患者情報の取扱いに触れていないか | 医療広告ガイドライン確認、運用ルール |
| 節税以外の目的 | 学術・教育・啓発・承継などの目的があるか | 定款、活動記録、事業計画 |
このスキームが問題視されるとすれば、その理由はほぼ次の4点に集約されます。逆に言えば、この4点を満たしていれば、税務調査で説明できる構造になります。
原則1|活動の実体があること
一般社団法人が「箱だけ」の存在になっていないか。これが最初に見られます。定期的に社員総会・理事会が開催され、議事録が残っているか。セミナーや研究会が実際に開催され、参加者や記録が存在するか。ウェブサイトやパンフレットで対外的に活動を発信しているか。
実体のない法人に業務委託費を支払っている、という構図が最も危険です。活動記録は、節税の副産物ではなく、スキームの土台そのものだと考えてください。
原則2|対価が業務内容に見合っていること
医療法人から一般社団法人へ管理業務委託費を支払う場合、その金額に合理的な根拠が必要です。委託業務の内容、工数、外部相場との比較を示せるようにしておきます。
「利益調整のために都合のよい金額を決めている」と見られれば、超過部分は否認され、寄附金や役員給与として扱われる可能性があります。契約書、業務報告書、請求明細といった書類が、そのまま防御の材料になります。
原則3|医療法・関連法規に抵触しないこと
診療報酬の請求主体、患者情報の取扱い、医療広告のルールなど、医療分野特有の規制があります。一般社団法人が広告を出す場合、医療広告ガイドラインの適用範囲に入るかどうかの確認が必要です。税務だけを見て組み立てると、別の法規制に触れることがあります。
原則4|目的が「節税」だけになっていないこと
これは精神論ではなく、実務上の防御です。「なぜこの法人をつくったのか」という問いに対して、税負担以外の答えを持っているかどうか。学術の発展、後進の育成、地域への啓発、事業承継の受け皿。こうした目的が定款と活動に一貫して表れていれば、スキーム全体の説得力が変わります。
医療法人と一般社団法人の比較
| 項目 | 医療法人 | 一般社団法人(非営利型) |
|---|---|---|
| 診療行為 | 可能 | 不可 |
| 事業範囲 | 医療法で限定 | 定款で広く設定可能 |
| 剰余金の配当 | 禁止 | 禁止(分配不可) |
| 法人税の課税範囲 | 全所得 | 収益事業から生じた所得 |
| 設立手続き | 都道府県の認可が必要 | 登記のみで設立可能 |
| 設立までの期間 | 数か月〜(認可のタイミングに依存) | おおむね2〜3週間程度 |
| 解散時の残余財産 | 国・地方公共団体等へ | 定款の定めに従う(非営利型は公益的帰属) |
この表から見えてくるのは、両者が競合関係ではなく補完関係にあるということです。診療は医療法人が担い、診療以外の価値は一般社団法人が担う。この役割分担が、設計の出発点になります。
なお、設立の手軽さは一般社団法人の大きな利点です。医療法人の設立には都道府県の認可が必要で、申請時期も限られますが、一般社団法人は登記のみで設立でき、事業年度の途中でも立ち上げられます。
設計から運用までの進め方
| 工程 | 実施内容 | 注意点 |
|---|---|---|
| 現状の把握 | 所得構造・税負担・承継意向を整理する | 医療法人・個人の両方を見る |
| 切り出す機能の特定 | 教育、学術、管理受託、資産保有から選ぶ | 実体を伴う機能に限定する |
| 定款・理事構成の設計 | 非営利型要件と3分の1以下ルールを満たす | 第三者理事の選定が重要 |
| 契約と運用記録 | 契約書、規程、議事録、区分経理を整える | 継続的な証拠化が必要 |
実務の順序は、おおむね次のようになります。
- 現状の把握:個人・医療法人それぞれの所得構造と税負担、将来の承継意向を整理する
- 切り出す機能の特定:教育、学術、管理受託、資産保有のうち、実体を伴って切り出せる機能を選ぶ
- 定款設計:非営利型の要件を満たす記載にする。目的・事業の書き方が後の課税判定に効いてくる
- 理事構成の設計:親族の割合を3分の1以下に収める。誰を招くかは実務上の最重要論点
- 契約と規程の整備:業務委託契約、賃貸借契約、報酬規程、経理区分のルールを固める
- 運用と記録:総会・理事会の議事録、活動記録、収益事業と非収益事業の区分経理を継続する
最後の区分経理は見落とされがちですが、非営利型の税務処理の根幹です。収益事業と非収益事業の収入・費用を明確に分けて記帳しなければ、収益事業のみへの課税という取扱いを主張できません。会計事務所にこの点の対応経験があるかどうかも、確認しておくべきポイントです。
よくある誤解と、その修正
| 誤解 | 正しい理解 | 注意点 |
|---|---|---|
| 診療収入を一般社団法人に付け替えればよい | 一般社団法人が扱えるのは医業以外の収入 | 医療法上の問題も生じる |
| 非営利型なら法人税が課されない | 収益事業は通常どおり法人税の対象 | 効果は構造を分けることにある |
| 家族を理事にすれば支配できる | 親族等は理事総数の3分の1以下 | 家族だけでは非営利型要件を満たせない |
| 医療法人がないと使えない | 個人開業でも一般社団法人の併設は可能 | 診療と医業以外の活動を分ける |
誤解1|「診療収入を一般社団法人に付け替えれば税負担が下がる」
これは成立しません。診療報酬を受け取る主体は医療法人または開設者である医師個人であり、一般社団法人がその収入を計上する余地はありません。仮に形式的に付け替えたとしても、実態に基づいて課税されるうえ、医療法上の問題も生じます。一般社団法人が扱えるのは、あくまで医業以外の収入です。
誤解2|「非営利型にすれば法人税は課されない」
非営利型で課税対象外になるのは、収益事業に該当しない活動から生じた所得です。有料セミナー、教材販売、業務受託といった一般的な収益活動は、収益事業に該当する可能性が高く、通常どおり法人税の対象となります。
それでも意味があるのは、所得を医療法人・個人・一般社団法人の三者に分散でき、それぞれで軽減税率の枠や各種控除を使えるからです。効果の源泉は「課税されないこと」ではなく「構造を分けること」にあります。ここを取り違えると、期待と現実が乖離します。
誤解3|「家族を理事にすれば法人を支配できる」
非営利型の要件により、理事のうち理事本人とその親族等の合計は理事総数の3分の1以下でなければなりません。たとえば理事が3名なら、先生とご家族で占められるのは1名までです。「実質的な支配」を求めて家族で固めると、要件を満たさず、法人は普通型として全所得課税を受けます。
この制約は、多くの先生が最初に驚く点です。しかし裏を返せば、第三者の目が入ることで法人としての実体と信頼性が担保されるという意味でもあります。誰を理事に迎えるかは、スキームの成否を分ける実務上の最重要論点です。
誤解4|「医療法人がないと使えない」
個人開業のままでも、一般社団法人を併設する設計は可能です。診療は個人事業として行い、教育・学術・情報発信といった活動を一般社団法人で行う。この形であれば、医療法人化の認可を待たずに、法人としての活動を先行して立ち上げられます。
むしろ、将来の医療法人化や事業承継を見据えるなら、早い段階で一般社団法人を設立し、活動の実績を積み上げておくほうが、後の設計はしやすくなります。設立から日が浅い法人に大きな金額の業務を委託すれば、その合理性を問われるためです。実体は、時間をかけて積み上げるものです。
まとめ
- 医療法人は配当禁止・事業範囲の限定・出口の閉鎖という3つの制約を持ち、それ自体では設計の自由度が低い
- 一般社団法人は診療行為を担えないが、教育・学術・管理受託・資産保有といった周辺機能を担える
- 非営利型を選べば、法人税の課税対象は収益事業から生じた所得に限定される
- 非営利型の要件として、理事のうち親族等が3分の1以下であることが求められる
- 否認を避ける鍵は、活動の実体・対価の合理性・関連法規との整合・節税以外の目的の4点
医師・歯科医の先生方にとって、一般社団法人は「医療法人の代わり」ではありません。医療法人が構造上担えない部分を引き受ける、もう一つの器です。この役割分担を正しく理解して設計すれば、税負担の最適化と事業承継の道筋を同時に描くことができます。

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