資産を持つ経営者やオーナーが、資産管理会社の設立を検討するとき、その受け皿として通常思い浮かべるのは株式会社です。ところが近年、一般社団法人を資産管理の器として使う設計が注目されています。
株式会社の資産管理会社と、一般社団法人。どちらも資産を法人で保有し、所得を分散し、相続に備えるという目的では共通します。しかし、その性質は根本的に異なり、向き不向きがはっきり分かれます。
本記事では、一般社団法人を資産管理会社として使う場合のメリットとデメリットを、株式会社の資産管理会社と比較しながら整理します。自分にとってどちらが適するのかを判断できるよう、両者の違いを一つずつ明確にしていきます。
そもそも資産管理会社とは何か
資産管理会社とは、個人が保有する不動産、株式、その他の資産を法人に移し、その法人を通じて資産を保有・運用する仕組みです。主な狙いは次の三つです。
- 所得の分散:賃料や配当などの収入を法人に移し、役員報酬として家族に分散することで、個人の累進課税を緩和する
- 相続対策:資産を法人の器に収め、株式の贈与などを通じて計画的に承継する
- 管理の一元化:複数の資産をひとつの法人で管理し、運営を効率化する
この役割を、従来は株式会社が担ってきました。一般社団法人は、この資産管理会社の器として、株式会社とは異なる特性を持つ選択肢です。
株式会社と一般社団法人の根本的な違い

両者の違いは、たった一点に集約されます。持分があるかないか、です。
株式会社には株式という持分があり、オーナーが株式を保有します。この株式は財産であり、相続財産として承継され、課税されます。一方、一般社団法人には持分がなく、法人の財産は誰のものでもありません。社員や理事は、法人財産に対する所有権を持ちません。
この違いが、資産管理会社としての性質を分けます。株式会社は「財産が株式という形で残る器」であり、一般社団法人は「財産が誰のものでもない形で留まる器」なのです。この根本的な差が、以下のメリット・デメリットのすべての源になっています。
この点を理解すると、一般社団法人の評価が「両義的」になる理由も見えてきます。「財産が相続財産にならない」という同じ性質が、相続税対策としてはメリットになり、財産を家族に残したい人にとってはデメリットになる。同じコインの表と裏なのです。だからこそ、一般社団法人が資産管理会社として向くかどうかは、制度の優劣ではなく、その人が何を望むかによって決まります。この視点を持って、以下のメリット・デメリットを読み進めてください。
なぜ資産管理会社に一般社団法人が注目されるのか
従来、資産管理会社といえば株式会社が定番でした。それでも一般社団法人が選択肢に上がるようになった背景には、承継の悩みの深さがあります。
株式会社の資産管理会社は、所得分散には有効ですが、相続の観点では一つの限界を抱えます。それは、資産管理会社の株式そのものが相続財産として残り続けることです。会社に資産を集めるほど、その株式の評価額が上がり、承継のたびに課税されます。器を作っても、財産が「株式」という形を変えて残るだけ、という側面があるのです。
一般社団法人は、この「財産が残り続ける」構造そのものを断ちます。持分がないため、資産を移せば、それは相続で承継される財産ではなくなります。この一点が、承継に深く悩む資産家にとって、株式会社にはない魅力として映るのです。ただし、その魅力の裏側には、後述する重いデメリットがあることも、同時に理解しておく必要があります。
具体的なシナリオで考える
賃貸不動産を持つオーナーの場合
複数の賃貸物件を持ち、賃料収入が大きいオーナーを考えます。個人で保有すれば賃料は累進課税の対象、株式会社に移せば所得分散はできるが株式が相続財産として残る。一般社団法人に移せば、賃料を法人所得として分散でき、しかも将来の値上がりを含めて相続財産から外せます。
ただし、既存物件の移転にはみなし譲渡課税などのコストがかかり、いったん移せば売却して現金化する道が閉ざされます。「この物件群は売らず、次代に継続保有させる」という方針が固まっているなら、一般社団法人は有力です。逆に、状況次第で売却も考えたいなら、株式会社のほうが柔軟です。
同族会社の株式を持つ経営者の場合
事業会社の自社株を保有する経営者が、その株式を資産管理の対象として法人に持たせるケースです。一般社団法人に自社株を持たせれば、株価上昇が相続税に直結する連鎖を断てます。事業を家族を超えて継続させたい経営者に向く設計です。
この場合も、みなし相続税を避ける理事構成が前提になります。家族だけで固めれば、かえって課税を招くため、第三者を過半数に迎える覚悟が問われます。
一般社団法人を資産管理会社にするメリット
メリット1|株式という相続財産が生じない
株式会社の資産管理会社では、会社の純資産が増えれば株価が上がり、その株式が相続財産として課税されます。資産を法人に移しても、株式という形で財産は残り続けます。
一般社団法人には持分がないため、法人が保有する資産は、理事や社員の相続財産になりません。資産を一般社団法人に収めれば、その資産(およびその将来の値上がり分)は、経営者個人の相続財産から外れます。世代を超えて承継する際にも、株式の相続という形の課税が発生しません。
メリット2|所得の分散ができる
これは株式会社の資産管理会社と共通するメリットです。賃料収入などを法人の収入とし、役員報酬として家族に支払うことで、個人の累進課税を緩和できます。非営利型を選べば、収益事業以外の所得への課税も限定されます。
メリット3|資産を分割させずに保有できる
相続で資産が複数の相続人に分散し、共有になって管理が滞る、という事態を避けられます。資産は一般社団法人が一体として保有し続け、理事が運営を担う。事業や資産を分割させたくない場合に有効です。
一般社団法人を資産管理会社にするデメリット
デメリット1|財産を個人に戻せない
これが最大のデメリットです。一般社団法人には持分がないため、法人に移した資産を、後から個人の財産として取り戻すことができません。
株式会社なら、株式を売却したり、会社を清算して残余財産を受け取ったりできます。一般社団法人では、これができません。資産を取り出す手段は、役員報酬と退職金に限られます。「いざとなったら資産を売って現金化する」という出口が、一般社団法人には用意されていないのです。
この制約の重さは、想像以上です。人生には、まとまった資金が必要になる局面が訪れます。大きな病気、事業の立て直し、家族の事情。そうしたとき、株式会社なら資産を売って現金を作れますが、一般社団法人に収めた資産は、原則としてそのまま取り出せません。役員報酬という形で少しずつ受け取るしかなく、機動的な資金化ができないのです。一般社団法人に資産を移すという判断は、「この資産は当面、あるいは永続的に、個人の手元には戻さない」という覚悟とセットでなければなりません。この覚悟がないまま器の魅力だけで移すと、後で身動きが取れなくなります。
デメリット2|2018年改正のみなし相続税
2018年(平成30年)の税制改正で、同族役員が理事総数の2分の1を超える一般社団法人には、みなし相続税が課されるようになりました。同族理事の死亡時に、法人の純資産を同族理事数で按分した額に相続税が課されます。しかも相続開始前5年のうち3年以上該当していた場合も対象です。
これを避けるには、理事の過半数を親族以外の第三者が占める必要があります。資産を保有する法人の意思決定を第三者に委ねることを意味し、支配権の観点で慎重な検討を要します。
デメリット3|資産移転時のコスト
個人から一般社団法人へ資産を移す際、不動産ならみなし譲渡課税や登録免許税・不動産取得税、有価証券なら譲渡課税などが生じます。含み益の大きい資産ほど、移転時の負担が重くなります。
デメリット4|事業の売却・イグジットができない
株式会社なら、事業や資産を第三者に売却し、その対価を得る出口があります。一般社団法人には持分がないため、この選択肢が最初から存在しません。将来の売却を視野に入れるなら、一般社団法人は不向きです。
株式会社と一般社団法人の比較一覧
| 項目 | 株式会社の資産管理会社 | 一般社団法人 |
|---|---|---|
| 持分 | あり(株式) | なし |
| 相続財産 | 株式が相続財産になる | 株式に相当するものがない |
| 所得分散 | 可能 | 可能 |
| 財産の取り出し | 配当・株式譲渡・清算で可能 | 役員報酬・退職金に限られる |
| 事業・資産の売却 | 可能 | できない |
| 承継 | 株式の贈与・事業承継税制を活用 | 理事の交代で承継(財産は移らない) |
| みなし相続税 | 対象外 | 同族理事2分の1超で対象 |
この表が示すとおり、両者は「財産を家族に残せるか」「資産を売却できるか」という点で決定的に異なります。株式会社は財産と出口を残す器、一般社団法人は財産を分散させず継続させる器、という性格の違いです。
どちらを選ぶべきか|判断の軸

選択の軸は、資産管理を通じて何を実現したいかにあります。
株式会社が向くケース
財産を家族に残したい、将来資産を売却する可能性がある、家族だけで自由に運営したい。こうした場合は、株式会社の資産管理会社が適します。持分があり、財産を株式という形で承継でき、出口も確保できます。多くの資産管理会社が株式会社なのは、この柔軟性のためです。実際、資産管理を目的とする法人の大半は、今も株式会社が選ばれています。一般社団法人はあくまで、特定の目的に強く合致する場合の選択肢だと理解しておくのが適切です。
一般社団法人が向くケース
財産を個人に戻すことより資産を分割させず継続させたい、事業や資産を家族を超えて残したい、株式の相続という課税の連鎖を断ちたい、信頼できる第三者を運営に迎えられる。こうした場合は、一般社団法人が力を発揮します。
両者は排他的ではありません。株式会社の資産管理会社を持ちつつ、その株式を一般社団法人が保有するという併用設計も考えられます。目的に応じて、器を組み合わせることも選択肢です。
この併用は、両者のいいとこ取りを狙うものです。日々の資産運用や機動的な売買は株式会社で行い、その株式会社の株式を一般社団法人が保有することで、株式の相続を回避する。株式会社の柔軟性と、一般社団法人の分散防止効果を、階層構造で組み合わせるわけです。ただし、法人を二つ運営するコストと手間が増え、設計も複雑になります。資産の規模が大きく、承継の重要性が高い場合に検討する価値のある、上級者向けの設計と言えます。まずは単独の器で目的が達せられないかを考え、それで足りない場合に併用を検討する。この順序が現実的です。
よくある誤解を正す
誤解1|「一般社団法人なら資産に税金がかからない」
これは誤りです。非営利型でも収益事業から生じた所得には法人税が課され、賃貸事業などは課税対象になり得ます。また、2018年改正のみなし相続税もあります。「一般社団法人=無税」という理解は成り立ちません。
誤解2|「株式会社よりつねに有利」
有利かどうかは目的によります。財産を家族に残したい人にとっては、財産を戻せない一般社団法人はむしろ不利です。どちらが優れているという話ではなく、目的との相性で決まります。
誤解3|「一度作れば安泰」
一般社団法人を資産管理に使うには、みなし相続税を避けるための理事構成を、継続的に維持する必要があります。作って放置すれば、規制の網にかかります。運営の継続が前提の器です。
具体的には、第三者を理事の過半数とする体制を、相続開始前5年のうち3年を超えて保ち続けなければなりません。途中で第三者理事が抜けて家族だけになった期間が長引けば、みなし相続税の対象に戻ってしまいます。つまり、この手法は「設立して終わり」ではなく、適切な理事構成を長期にわたって維持し続ける運営があって初めて機能します。器を作る労力より、それを正しく運営し続ける労力のほうが、実は大きいのです。
まとめ
- 資産管理会社の器として、株式会社と一般社団法人という二つの選択肢がある
- 両者の根本的な違いは、持分があるかないか。この一点が、以下のすべての性質を分けている
- 一般社団法人のメリットは、株式という相続財産が生じず、資産を分割させずに世代を超えて継続できること
- 最大のデメリットは、法人に移した財産を個人に戻せず、資産の売却・現金化もできないこと
- 2018年改正のみなし相続税を避けるには、第三者を理事の過半数とする体制の維持が必要
- 財産を家族に残したいなら株式会社、資産を分割させず継続させたいなら一般社団法人が一つの目安になる
- 両者は排他的ではなく、株式会社の株式を一般社団法人が保有する併用設計も選択肢になる
一般社団法人を資産管理会社として使うことは、正しく設計すれば、資産を分割させず世代を超えて継続させる強力な手段になります。しかし、財産を個人に戻せず、資産を売却できないという制約は、株式会社にはないものです。この特性が自分の目的に合うかどうか。それを見極めることが、器選びの出発点です。何を実現したいのかを明確にしてから、器を選ぶ。この順序を守ることが、後悔のない資産管理につながります。
資産管理は、一度器を決めて資産を移すと、後戻りに大きなコストがかかる分野です。特に一般社団法人は、財産を戻せないという性質上、選択を誤ったときの修正が難しくなります。だからこそ、目先の節税効果だけで飛びつくのではなく、十年後、二十年後、そして次の世代にわたって、その器がどう機能するかを見通して判断することが求められます。株式会社と一般社団法人、それぞれの長所と短所を正しく理解し、自分の資産と家族にとって何が最善かを、じっくり検討することをお勧めします。

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