一般社団法人の相続時のみなし贈与課税|2018年改正の影響を完全解説

「一般社団法人を使った相続対策は、2018年の改正で封じられた」。そう聞いて不安になった方も多いのではないでしょうか。かつて相続税対策の切り札とされた一般社団法人は、平成30年度の税制改正で大きく制限されました

しかし、「封じられた」という表現は、正確ではありません。規制されたのは、あくまで特定の使い方です。改正の中身を正しく理解すれば、どの設計が規制対象で、どの設計が今なお有効なのかが見えてきます。

本記事では、2018年改正で導入された、一般社団法人に対するみなし課税の制度を、正確かつ網羅的に解説します。何がどう変わり、実務上どう対応すべきかを、一つずつ確認していきます。

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目次

改正前|なぜ規制が必要だったのか

まず、改正の背景を理解します。一般社団法人には出資持分がありません。株式会社と違い、法人の財産に対する持分という概念が存在しないのです。

この性質を利用した相続対策が、かつて広く行われました。資産を一般社団法人に移し、家族が理事として運営する。理事が亡くなっても、株式のような相続財産が存在しないため、相続税がかからない。世代交代のたびに理事を入れ替えれば、資産は法人に留まり続け、相続税を永久に回避できる。これが、改正前のスキームでした。

問題は、この仕組みが、実質的には家族が支配する法人でありながら、相続税を負担しない点にありました。株式会社なら株式に相続税がかかるのに、一般社団法人という器を使えば回避できる。この不公平を是正するために、2018年改正が行われたのです。

この改正は、突然行われたわけではありません。一般社団法人を使った過度な相続税回避が広がり、税制の公平性を損なうとして問題視される中で、段階的に議論が進められてきました。もともと一般社団法人という制度は、多様な非営利活動の受け皿として設けられたものであり、家族の資産を代々無税で承継させるための道具として使われることは、制度の本来の趣旨から外れます。改正は、この本来の趣旨に立ち返り、制度の想定を逸脱した使い方に歯止めをかけるものだったと理解できます。

2018年改正の核心|特定一般社団法人等へのみなし課税

改正で導入されたのが、特定一般社団法人等に対する、相続税のみなし課税です。仕組みを順に見ていきます。

特定一般社団法人等とは何か

次のいずれかに該当する一般社団法人・一般財団法人が、特定一般社団法人等とされます。

  • 相続開始の直前において、同族役員数が理事総数の2分の1を超えている
  • 相続開始前5年以内において、同族役員数が理事総数の2分の1を超える期間の合計が3年以上である

平たく言えば、家族で理事の過半数を占めている法人が対象です。2つ目の要件が特に重要で、過去5年間を遡って判定するため、亡くなる直前だけ家族を理事から外しても、規制を逃れられません

同族役員の範囲

同族役員には、次の人が含まれます。被相続人本人、その配偶者、三親等内の親族、そして被相続人が支配する会社の役員や使用人など、被相続人と特殊な関係にある者です。単に家族というだけでなく、被相続人が実質的に影響力を持つ人物が広く含まれる点に注意が必要です。

課税される金額の計算

特定一般社団法人等の同族理事が死亡した場合、次の金額が課税対象になります。

その法人の純資産額を、死亡した理事を含む同族理事の数で割った金額。これを、その法人が被相続人から遺贈により取得したものとみなして、相続税が課されます。

具体例で見ます。法人の純資産が3億円、同族理事が3名(本人・配偶者・長男)だとすると、3億円 ÷ 3名 = 1億円が課税対象額として扱われます。この1億円に対して、相続税が計算されます。

そして、納税義務を負うのは法人です。個人ではなく、一般社団法人そのものが相続税を納めることになります。これは、通常の相続税とは異なる、特殊な仕組みです。

この点は、実務上の注意を要します。法人が納税義務を負うということは、法人に納税資金がなければ、その資金をどう用意するかという問題が生じます。純資産の大半が不動産などの換金しにくい資産で構成されていれば、みなし相続税を納めるための現金を確保できず、資産を売却せざるを得ない事態も起こり得ます。家族支配型の一般社団法人に資産を溜め込むことは、この納税資金の問題も抱え込むことを意味します。課税額の計算だけでなく、その納税をどう賄うかまで見据えておく必要があるのです。

「みなし贈与」か「みなし相続税」か|用語の整理

この制度を検索すると、「みなし贈与」という言葉と「みなし相続税」という言葉の両方が出てきて、混乱する方がいます。ここで整理しておきます。

2018年改正で導入された、同族理事の死亡に伴う課税は、正確には相続税の課税です。同族理事が死亡したときに、その法人が被相続人から遺贈により財産を取得したものとみなして、法人に相続税を課すものです。「死亡」を起因とする課税なので、相続税の枠組みで理解するのが正確です。

一方、「みなし贈与」という言葉は、主に相続税法66条4項の文脈で使われます。こちらは、生前に個人が持分のない法人へ財産を移転した際、それによって税負担が不当に減少すると認められる場合に、その法人を個人とみなして贈与税等を課すものです。生前の財産移転を起因とするため、贈与税の枠組みです。

つまり、一般社団法人をめぐる課税には、大きく分けて二つの局面があります。生前に財産を移すときの課税(66条4項・みなし贈与)と、同族理事が死亡したときの課税(2018年改正・みなし相続税)です。どちらも家族支配型の法人を狙い撃ちにしている点は共通しますが、課税の起点とタイミングが異なります。この二つを混同しないことが、正確な理解の第一歩です。

世代を超えて繰り返される課税

この制度の厳しさは、課税が一度で終わらない点にあります。

同族理事が一人亡くなるたびに、その時点の純資産をもとに計算が行われます。配偶者が亡くなればそのとき課税され、長男が亡くなればまた課税される。世代を超えて、同族理事の死亡のたびに繰り返される可能性があるのです。

改正前は「一度資産を法人に入れれば、あとは相続税がかからない」とされていました。改正後は、家族支配を続ける限り、理事の死亡のたびに課税される。まさに、旧来のスキームの逆を行く設計になっています。

では、規制されなかったのは何か

ここが本記事の核心です。2018年改正が規制したのは、あくまで家族で理事の過半数を占める法人です。逆に言えば、そうでない法人は、みなし課税の対象になりません

特定一般社団法人等に該当しないためには、理事の過半数を、被相続人およびその親族等以外の第三者が占める必要があります。理事5名なら、家族は2名まで、第三者が3名以上、という構成です。この状態を、相続開始前5年のうち3年を超えて維持していれば、みなし課税の対象になりません。

つまり、一般社団法人による資産の保有や事業の継続そのものが禁止されたわけではありません。「家族だけで支配しながら課税を免れる」という使い方が封じられただけで、第三者を含めた体制で運営する設計は、今なお有効なのです

非営利型の要件との関係

ここで、非営利型の要件を思い出してください。非営利型の一般社団法人として法人税の取扱いを受けるには、理事のうち理事本人とその親族等の合計が理事総数の3分の1以下であることが求められます。

この3分の1という基準は、みなし課税を避けるための2分の1という基準より厳しいものです。したがって、非営利型の要件を満たしている法人は、自動的に特定一般社団法人等にも該当しません

さらに、相続税法66条4項という別の規定でも、親族等が理事の3分の1以下であることが、課税を避けるための要件の一つとされています。非営利型の要件、特定一般社団法人等の判定、相続税法66条4項。この三つが、いずれも親族割合を軸としており、非営利型の3分の1基準を満たせば、すべてクリアできる構造になっています。

三つの規制を一覧で整理する

スクロールできます
規制内容親族割合の基準
特定一般社団法人等のみなし相続税同族理事の死亡時、純資産を按分した額に相続税同族理事が2分の1超で対象
相続税法66条4項法人への財産移転で税負担が不当に減少する場合の課税親族等が3分の1以下ほか
非営利型の要件法人税の課税を収益事業に限定するための要件親族等が3分の1以下

この表のとおり、最も厳しい非営利型の3分の1基準を満たしておけば、三つすべての規制をクリアできます。設計の起点を、ここに置くのが合理的です。

実務上、どう対応すべきか

第三者を理事に迎える

みなし課税を避ける鍵は、信頼できる第三者を理事の過半数として迎えることです。理事会は理事の過半数で意思決定を行うため、これは法人の運営を一定程度、第三者に委ねることを意味します。相続税の課税を避ける代わりに、家族の支配を手放す。この取引を受け入れられるかが、最初の分岐点です。

平時から体制を維持する

判定は過去5年を遡ります。したがって、相続が近づいてから慌てて理事を入れ替えても間に合いません。第三者を過半数とする体制を、平時から継続的に維持しておくことが求められます。この手法は、早く始めるほど有効に機能します

純資産を膨らませすぎない

みなし課税の額は、法人の純資産に比例します。法人に資産を溜め込むほど、万一該当した場合の課税額は大きくなります。役員報酬や事業への再投資を通じて、純資産を計画的にコントロールする視点も、リスク管理として有効です。

よくある誤解を正す

誤解1|「もう一般社団法人の相続対策は使えない」

使えます。規制されたのは家族支配型の設計だけで、第三者を含めた体制なら、今なお有効です。「封じられた」という言葉に惑わされて選択肢を捨てるのは、もったいないことです。

誤解2|「直前に理事を変えれば逃れられる」

逃れられません。判定は過去5年のうち3年以上を見るため、直前の形式的な変更では対処できない仕組みになっています。

誤解3|「みなし課税は個人が払う」

納税義務を負うのは法人です。一般社団法人そのものが相続税を納めます。この点は、通常の相続税と大きく異なります。

すでに一般社団法人をお持ちの方へ

2018年改正の前に、家族で固めた一般社団法人を設立し、資産を移してしまった方もいるでしょう。その場合、どう対応すべきでしょうか。

まず確認すべきは、現在の理事構成です。同族理事が理事総数の2分の1を超えているなら、その法人は特定一般社団法人等に該当し、同族理事の死亡時にみなし相続税が課される状態にあります。放置すれば、想定外の課税を招きます

対応の方向性は、理事構成の見直しです。信頼できる第三者を理事に迎え、同族理事の割合を過半数以下、できれば非営利型の3分の1以下まで引き下げる。ただし、判定は過去5年を遡るため、体制を変えてから効果が安定するまでには時間がかかります。だからこそ、気づいた時点で早めに動くことが重要です

既存の法人が規制対象になっているかどうかは、理事構成、純資産、過去の状態を踏まえた個別の判断を要します。心当たりがある場合は、専門家に現状を確認してもらうことをお勧めします。「知らないうちに課税対象になっていた」という事態を避けるためです。

改正が示す一つのメッセージ

2018年改正、相続税法66条4項、非営利型の要件。これらの規制が一貫して示しているのは、一つの明確なメッセージです。

それは、「家族だけで支配する法人に、税制上の特別扱いは認めない」ということです。一般社団法人の非営利という性格は、特定の家族の利益のためではなく、より開かれた運営を前提としています。だからこそ、家族で固めて私的に使おうとすると、規制の対象になるのです。

逆に言えば、第三者を含めた開かれた体制で、法人としての実体を伴って運営するなら、一般社団法人は正当な選択肢として機能します。規制を「制約」と捉えるか、「正しい使い方への指針」と捉えるか。後者の視点に立てば、改正はむしろ、健全な設計を促すものだと理解できます。

まとめ

  • 2018年改正で、特定一般社団法人等に対するみなし相続税の制度が導入された
  • 対象は、同族理事が理事総数の2分の1を超える法人。過去5年で3年以上該当も対象
  • 同族理事の死亡時、純資産を同族理事数で按分した額に相続税が課される
  • 納税義務を負うのは法人。課税は同族理事の死亡のたび、世代を超えて繰り返される可能性がある
  • 規制されたのは家族支配型の設計だけ。第三者を過半数とする設計は今なお有効である
  • 非営利型の3分の1基準を満たせば、三つの規制すべてを自動的にクリアできる

2018年改正は、一般社団法人による相続対策を「封じた」のではなく、「家族だけで支配しながら課税を免れる」という使い方を封じたものです。制度の趣旨に沿い、第三者を含めた体制で運営すれば、一般社団法人は今なお有効な選択肢です。大切なのは、正確な理解に基づいて設計することです。古い情報や不正確な理解で判断すると、規制の網にかかるか、あるいは有効な選択肢を無用に手放すことになります。

インターネット上には、改正前の情報がいまだに数多く残っています。「一般社団法人で相続税がかからない」という古い記事を鵜呑みにすれば、規制に抵触する設計を組んでしまいます。逆に、「もう使えない」という断定的な情報を信じれば、正しく設計すれば有効な選択肢を、検討もせずに手放すことになります。どちらも、正確な理解を欠いた判断です。この分野は、制度の細部が結果を大きく左右します。信頼できる専門家とともに、現行制度を正しく踏まえて判断することが、何よりの近道です。

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【監修・執筆】

一般社団法人公益法人総合研究所 代表理事 佐藤 友和

ARK司法書士法人 代表司法書士 藤嶌 寛和

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